カンリリカときつねのかみさま
作者のことば 八谷早希子(はちやさきこ)
おはなしを さいごまで よんでくれて
ほんとうに ありがとう!
わたしたちが くらす せかいには
どうぶつや しょくぶつ
めには みえない かみさまが います。
みんなで たすけあって たのしく
くらしていけたら いいよね!
解説
このお話はアイヌ文化のもつさまざまな要素を組み合わせ、構成された創作絵本です。作者がアイヌ文化に興味を持ち、調べていく中から生まれたお話で、植物の特徴や自然との関わり方、精神世界など、神と人間との相互扶助の関係をよく表した作品となっています。
子どもたちに読み聞かせをする方々に、アイヌ文化についてより理解を深めていただくため、このお話に登場する次のキーワードについてご説明します。
サケとマレク【表示、P1-6、P27-28】
このお話に登場する魚はサケをイメージしています。サケはアイヌ語でカムイチェプ(神の魚)、シペ(本当の食べもの)と呼ばれ、アイヌの伝統的な食文化を語る上では欠かせない魚です。サケの遡上する川があることは、コタン(村)がつくられる重要な条件であったといわれています。
産卵のため遡上するサケをとる道具のひとつにマレクと呼ばれる突き鉤があります。長い柄の先に鉤がついたもので、魚を突く反動で鉤が外れ反転し、引っかけるもので、北海道以南では見られないアイヌ独特の漁具です。
良い神、悪い神【ウェンカムイ:P7-14】
アイヌの人々はあらゆるものに魂が宿っていると考えてきました。その中でも人間の役に立つもの、人間の力ではどうすることもできない事象など、特別なものに カムイ(神)という称号をつけて呼びます。神の国においては人間と同じ姿をし、同じように生活をしていると考えられ、この世での姿が植物や動物であり、さまざまな自然現象となり、人間の生活に欠くこのできないものとなるのです。
神も人間と同じ様に悪戯をしたり、嫉妬するなどいろいろな性格をもっているのだといいます。たくさんの幸を与え、守護し、力を与えてくれる神ばかりではなく、このお話にも登場する疱瘡などの病気を振りまく恐ろしい神や地震、津波などの災いをもたらす神も多いのです。
パコロカムイ【P9-10、P12、P15、P19-25】
このお話ではパコロカムイに病気の神という訳がつけられていますが、疱瘡神、巡行神、歳神などと訳され、力が強く、位の高い神であり、大変恐ろしい神と考えられてきました。疱瘡が流行ると村が全滅することもあったことから、悪魔の追跡を避けるために、足跡を消しながら逃げたともいわれるくらい注意がはらわれたといいます。
また、粟や稗、魚のヒレなどを捧げ「この村にはこんな粗末なものしかありませんので、どうかよその豊かな村へいって下さい」などと祈り、病神を遠ざけたといいます。
ぎょうじゃにんにく【P12、P15-20、P23-24】
春は山菜の季節、ぎょうじゃにんにくはアイヌ語でプクサと呼ばれ、強い臭気があります。この強い臭気は、どんな病気の神も鼻を押さえ逃げ出すほど強烈だと考えられていたことから、流行り病があると、村の入口や家の軒に下げるなどしたほか、あらゆる病気の際に薬としても使われたといいます。風邪や結核、脚気、熱病などほとんどの病気に煎じて服用し、また、火傷や凍傷、痔、打ち身などは煎汁で患部を洗い、温湿布をするなどして利用されました。
きつね神と夢【P15-20、P25】
きつねはアイヌ語でチロンヌプやケマコシネカムイ(足の軽い神)などと呼ばれ、物語などにはいろいろな形で登場します。人間の頼みごとを良く聞いてくれる神であったり、食糧を持参してくれる神であったり、このお話にあるように、時には病魔や外敵などの襲来を防いでくれたり、危急を知らせてくれる神でもあります。また、人間に化けたり、憑いたりして悪さをする神だともいいます。地域によってはきつねの頭骨を海漁の守護神とし、占いなどにも使われました。
カムイ(神)が人間に何かを知らせ、伝えるための手段として夢に登場するのだといいます。
火の神【P25-26】
火の神は人間にとって親しみやすい身近な神であり、最も位の高い神だと考えられています。暖かさや明るさを与え、その熱で煮炊きもするなど生活に欠かせない存在であるとともに、他の神々と人間との仲介役を担う存在だと考えられています。
イナウと酒【P25-26】
神に祈る際に使われるものにイナウと酒があります。イナウは神が最も喜ぶ土産であり、人間の願いなどを神々に伝えてくれる仲介役を担う木製の削り掛けのことです。材料にはヤナギ、ミズキが多く使われ、奉る神や地域によりさまざまな形状のものがつくられます。
酒もまた祈りに欠くことのできない存在です。自製するサケは、粟や稗などの穀類に麹を混ぜ合わせ造られるもので、10日ほどで醸造される白濁した酒です。清酒などの外来のものが使われることもあります。
引用参考文献
- アイヌ民族博物館編 「アイヌ文化の基礎知識」(草風館 1993)
- 伝承事業報告書 「ポロチセの建築儀礼」(アイヌ民族博物館 2000)
- 更科源蔵・更科光 「コタンの生物記Ⅰ 樹木・雑草篇」(法政大学出版局 1976)
- 更科源蔵・更科光 「コタンの生物記Ⅱ 野獣・海獣・魚族篇」(法政大学出版局 1976)
- 知里真志保 「知里真志保著作集2 説話・神謡編Ⅱ」(平凡社 1973)
- 中川裕 「アイヌの物語世界」(平凡社 1997)
- 藤村久和 「アイヌ、神々と生きる人々」(福武書店 1985)