かわうそのものがたり
作者のことば 四宅智子(したくともこ)・鈴木隆一(すずきりゅういち)
「かわうそものがたり」は、祖母の語ったものを少し変え、絵を担当した鈴木さんと、模索しながら形にする事が出来ました。このお話は、自分は大きく、ちからも強いと思い込んでいたかわうそが、コタンコロカムイをからかい、馬鹿にして怒らせてしまった為、最後には罰を受け、小さくされてしまったという悲しいお話です。かわうそを題材にしたこの絵本を通じて、自然と共に生きてきたアイヌと、現代社会とを見つめ直すきっかけになれればいいなぁと思います。また、子供達には、人をからかったり、弱いものいじめや、いやがらせをせず、相手の立場にたって物事を考えられる優しい人になってほしいと願っています。(四宅)
解説
この物語の主人公のカワウソはイタチ科の動物で、ユーラシアから北アメリカにかけて分布しています。このカワウソという名前は聞いたことがある方も多いと思いますが、動物園以外で実際に見たことのある人はというと、おそらくいらっしゃらないのではないでしょうか。カワウソは昔、日本各地の川や湖などにすみ、魚やカニ、エビ、それにネズミ類や鳥類を食べてくらしていました。しかし、その毛皮がとても上質であるために乱獲されて数が減り、しかも生息地である河川や湖の汚染が進むなか、各地で絶滅していきました。日本国内では、現在、高知県にわずかに生息しているのではないかといわれる程度の状況です。北海道でもその昔、各地の河川に数多くのカワウソが生息していましたが、現在ではすでに絶滅したと考えられています。また、もう一方の主人公であるシマフクロウは大型のフクロウの仲間ですが、北海道内には100羽程度しか生息していないといわれ、カワウソと同じように絶滅の危機に瀕しています。アイヌ語ではコタンコロカムイ(村を領有する神)と呼ばれ、位の高い重要なカムイ(神)と考えられていました。
さて、カワウソはというとアイヌ語ではエサマンといいます。この絵本ではカワウソがコタンコロカムイを怒らせてしまい、さんざんな目に遭ってしまうお話になっています。このように動物などのカムイが主人公になっている物語は、オイナ、あるいはカムイユカラなどと呼ばれるジャンルのもので、クマやキツネ、火や雷などさまざまなカムイたちが自らの体験を物語る内容になっています。通常はサケヘというリフレイン(繰り返しの言葉)とともに独特な節がついて語られるのが特長です。
アイヌの人たちの物語の中に出てくるカワウソは、どういうわけかあまり良いカムイとして扱われず、悪役として登場することが多いようです。例えば、ほかの悪いカムイとともに人間の村を滅ぼそうとしたり、人間に化けてコタン(集落)の人々に悪さをしようとしたり、あるいは人間やほかのカムイにいたずらしたりします。しかし、結局はこの絵本のようにカムイや人間たちにこらしめられてしまいます。
また、カワウソはとても物忘れのひどいカムイであるといわれていて、物語にも大きなクジラとの戦いの中で自分が刀を持っていることを忘れて苦戦しますが、ほかのカムイから刀のことを教えられ、クジラを切り刻んでようやく勝ったというような話も伝わっています。このようなカワウソの伝承から、物忘れをする人に対しての悪口として「エサマン」と呼ぶ地方もあったそうです。
ところで、この絵本のなかで、カワウソはもともととても大きくて強かったのですが、コタンコロカムイに細かくされて、結局、小さなサイズにされてしまいます。このように昔は体が大きかったけれども、悪さをしたことで小さくされてしまった話は、ほかにアメマス、トド、そしてウサギなどの動物が主人公の場合にもみられます。例えば、昔ウサギは大きく霊力も強かったのですが、ポンオタストゥンクル(「若いオタスッの人」という意味で、物語に登場する超人的な能力を持っている若者)にいたずらをしたために切り刻まれて小さくなり、今では人間にも獲られるようになったというような話などが伝わっています。
このほか、実際の生活のなかでのカワウソもまたあまり良いものではなかったようです。道東のある地方ではカワウソを見つけたときになにか口にくわえていたとしたら、捕まえてそのくわえているものを口から外さなければ魂をカワウソに盗られてしまうといわれ、そのままにしておくとその人は死んでしまうとも伝えられていました。
参考文献
- 知里真志保 1976 「分類アイヌ語辞典 植物編・動物編」『知里真志保著作集 別巻Ⅰ』平凡社
- 八重九郎口述 財団法人アイヌ無形文化伝承保存会編 1981 「ウサギの神の自叙伝」『神々の物語』財団法人アイヌ無形文化伝承保存会
- 四宅ヤエ口述 財団法人アイヌ無形文化伝承保存会編 1982 「集落を統率する神の自叙伝」『英雄の物語』財団法人アイヌ無形文化伝承保存会
- 稲田浩二・小澤俊夫編 1989 『日本昔話通観』第1巻 北海道(アイヌ民族) 同朋舎出版
- 北海道環境生活部環境室自然環境課編 2001 『北海道の希少野生動物 北海道レッドデータブック2001』北海道